★序曲-2★「あなたを雇う会社、この国にはないですよ……」~ニュージーランド移民に厳しい就活事情
(これまでのあらすじ)
オークランドでのドライブは、かしこい選択か否か?!
あいにく翌日も雨。
なるほど、飛行機チケットが安かったはずだ。7月のニュージーランドは寒い。雨が多い。まっ、観光に来たんじゃないから良しとしよう。今は仕事仕事、仕事探しの情報に専心するのだ。カンタもわたしも緊張な面もちで朝を迎えた。
「ねぇ、カンタ。モテルに荷物を置いて出かけられるから、市内観光をかねて今日はバスで行こっか?」
「なんで? せっかくレンタカーがあるのに、なにもバス代つかうことないやろ。車で行こうよ」
く~っ。細かっ! ケチやなぁ。
こんな時なんだよね。「主婦代わりましょうか?」って言いたくなるのわさ。
(いわないけど……)
実はわたし。
いつか、カンタの給料よりも稼げるようになった暁には「主婦代わりましょ!」って主婦タイトルベルトをさっと彼の前に差し出してニマっと笑う……ってな図を思いうかべて、日々、わが身のモチベーションを上げている。
そんなことは夢のまた夢だけどさ。こうやってチクッと家計のこととかに細かいこと言われるとイラっとするんだよね。
なんですかね、この感情……主婦のプライドですかね? 自分でいうのもなんですけれど、お金の使い方についてはそれなりに地味にお利口に考えてやりくりしいると自負してるんですよ。なのに、こういうちっちゃいことで「お得」とか「節約」とかいわれると、な~んか、おもしろくないわ。
(別にさ、宝石とがブランドもんとか? そういうの一切欲しがらない「お金のかからん節約ワイフ」だと思うんですよ、私 )
とはいえ、その後の事態により、このたびの是非のジャッジは、わたしの案に軍配が上がったとことを記しておかねば。
◇
バス代節約のため、われら一行、レンタカーで街に出たものの、市内の駐車場はどこもいっぱいで見つからない。
とどのつまりは、とーっても遠いところに車を置いて、てくてく歩く。
冬の雨の中、しょぼしょぼと傘を傾けながら歩く。
当然、娘たちは、どこまで歩くの~? とぶーたれる。
そして、泣けてくるのは駐車料金。
明らかにバス代よりも高いではないか……。
「ほれ見ぃ! 」
とまぁ、こんなカンジ。
ニュージーランド移民の就活、おそろしく苦戦の兆し……
わたしとカンタが「職」を求めて一番はじめに車を走らせたのは『Work and Income』(ワークアンドインカム)という日本でいう「職業安定所」みたいなところ。
あらかじめ印刷しておいたCV(履歴書)を数部手渡して終わり、っと思っていたらば受付のおばちゃんが、
「ちょっとまってて。担当者を呼ぶから」
と言ったきりドロンと消えて、帰るに帰れなくなってしまった。
数分後、担当者と思しきぽっちゃりレディーが現れた。
(NZのデスクワーカーには、実にぽっちゃりさんが多い……マジ、運動不足と思われる)
わたしたちは、数ある中のひとつのブースに促された。
席に着くや否や、ぽっちゃりレディーはパソコンを立ち上げ、
「年齢、国籍、学歴、職歴、趣味、特技、などなど、PRできることは何でも言ってね」と、カルテ(と思われる)フォームを開いた。
これまで自分がしてきた仕事やプロジェクト、自分の得意とする分野やスキルを前のめりになって語るカンタ。
私は彼の隣で、
「んだんだ。この人は死にそうになるまでがんばっちゃう働き者ですよ」
と心でつぶやきながらぽっちゃりレディーを見つめていた。
ふむふむ。ぱそぱそ……。
ぽっちゃりレディーは、カンタの回答をフォームに埋め込んでいく。
ぱそぱそぱそ。
「なるほど。すばらしいわ!
あなたの履歴書は、学歴も職歴もすばらしい! ようこそニュージーランドへ!」
『わぉ!』(カンタとわたし、心躍らせるの図)』
「ただねぇ……」と、ぽっちゃりレディー。
「はい?……ただ?」と、カンタとわたし。
「う~む。アナタのような職歴を生かす就職口を見つけるのは、たいへんだわ……」
「はい? ど、どうしてですか?」
「だってねぁ。アナタのようなハイスキルの技術者を雇える会社、ニュージーランドにあるとは思えないのよね……ここ、農業国だからねぇ……」
『がっぴょ~ん!』(古っ(;^_^A)
「就職口が狭き門……
……どころか、そもそも会社が……ない!?」
われら、放心状態で『Work and Income』をあとにする……。
その後、民間の職業斡旋所を3件まわったけれども、4件目を前にして力尽きた。
どこも、感触は同じ。
「あわれな移民たちよ。ムダなことしてるよキミたち」
というまなざしに、わたしたちは負けた……。
オークランド博物館のロビーで娘たちを解放し、わたしとカンタは臨時ミーティングを執り行うことにした。
さぁ、どうする? このまま仕事が見つからなかったら……?
働かずして2年も暮らせるか?
カンタの顔色は暗い。
で。
ふたりが出した決議案は、
『3日間の滞在を予定していたオークランドだが、もはやここにいるメリットは何もないと思われる。
一日繰り上げて明日にでも南方に下るべし!』
即決!
で。
実は、もうひとつ理由がある。
移民が大都市オークランドを見切ったのには、もうひとつわけがある……それは『不動産』
つまり家が高すぎた。
街のあちこちにある不動産屋のウインドーに張られた物件写真。
見れば見るほど、私たちの思い描いていたサバイバルプランが崩れていく。
どの家も予想の2-3倍。
これがねぇ。たいした家じゃないんだよ。
築40年の3ベッドルームが1500万。
(注:20年前のお話ですので、今でいうと3000万円ぐらいです)
バ、バカな!
オープンホームを見に行くまでもなく、購買欲は減退。
だからといって、借家はどうかという案にもシフトはできない。
だって、家賃はもっとクレイジーなんだもん。
ニュージーランドの家はどんどん値が上がってるので、いわゆる投資家たちの絶好の「ころがしモノ」。お金持ちは、どんどんお金持ちに。貧乏人はいつまでも貧乏人……この定義は、国を渡れど変わりがない模様。
しかも!
移民で、おまけにプーであるわたしたちは、何の信用もないため、家を買うにもローンを組むことができない!
つまり、家はキャッシュで買わねばならぬ。
覚悟はしていたものの。コレは痛い(>_<)
わたしの筋書き→「家を買って、残りのお金で当面の生活費を確保する」が、ここオークランドの物価では、希望的観測値ゼロ。
ううむ。
どうするダーリン?!
どうしよう……。
よし!
ならば、
とっとと、オークランドから出るしかあるまい!
と相成り、決議案は全員一致(2人だけど)で採択された。
◇
「じゃぁ、次はネーピアね!」
モテルまでの帰路、わたしは早速次なる企画案をカンタに提出した。
これには、カンタもすんなりうなずく。
というのも、私たちが以前訪ねたことがあるというのが、北島南東にあるネーピアという街だった。ここには一足先に移住を果たした友人が住んでいる。
約3年前。1週間の家族旅行をした際に3日ほど、そして翌年、「学校探検ビデオ」の制作のために取材に来た際には5週間ほどホームステイさせてもらっていて、つまりは、ここネーピアに関してだけはそこそこ土地勘がある。
さほど大きいわけでも小さいわけでもない人口6万人の街。
かろうじてガイドブックに載ってマス、といったミディアムサイズの街であるここは、気候がよいところとして地元ニュージーランダーからも大人気。
日本で言えば静岡県、といった風情もなかなか好き。
「行こう! 行こう! ネーピアに行こう!」
ってんで、ニュージーランド最大都市オークランドで2泊したわれら一行は、この土地にはまったくもって未練ゼロでサヨナラし、長距離バスのチケットを購入した。
オークランドを朝9時に出発。ハミルトン、ロトルア、タウポを経由してネーピアについたのは夕方4時。
道中、ひとつひとつの街をながめることができて、あんこときなこは、
「羊だぁ! 牛だぁ! ダチョウだぁ!」と、ご満悦。
ようやくここに来て、
「あ~、ニュージーランドに来たんだなぁ」と、しみじみ思う。
不思議なほどに不安はない。
人生80年として、今はまだターニングポイントにさしかかったところ。
マイライフ後半を何色に彩ろうかと心が躍る。
視界の上部半分いっぱいに広がる空を見上げ、大きくのびをした。
さぁ、宿を探そう。
(序曲-3 につづく)