★第1楽章-1★ まずは暮しを整えなくては……。~どこに住むか、それが問題だ。
これまでのあらすじ
寝床をさがす
ニュージーランドで一家4人が宿泊するとなると、B&B、ホリデーパーク、モテルなどがお手頃。
B&Bとは、
ベッド&ブレックファストの略で、つまり宿泊と朝食がつきますよ、でも夕食は外で食べてね、ってヤツ。多くは、一軒家の空き部屋にお泊まりさせてもらうという感触のところが多く、ニュージーランドならではの家庭の雰囲気が堪能できる。
ホリデーパークとは、
テントサイト、モーターキャンプサイト、バンガローサイト、そしてキッチン、バス、トイレ付きのファミリーサイトが同じ敷地に広がる大きな公園みたいなところ。子どもが遊ぶプレイグランド、ビリヤードや卓球場、プールなどもあり、お安く長期に宿泊したい人におすすめ。ただし、街からちょっぴり離れたところにあるので、車がないと移動がつらい。
そして
モテルといえば……。
私の両親をはじめてニュージーランドに招待し、一緒に北島を旅行したときのこと。
「私たちは、ホリデーパークのキャンプサイトに泊まるけど、お父ちゃんたちにはモテルを予約しておいたからね」
と言ったらば、お父ちゃんが、んぐっとフリーズ赤面したのを思い出す。
お父ちゃん、どした?
っと思ったところに、お母ちゃんが、
「いややわぁ、あんた、そんな恥ずかしいことー(;^_^A」
と私の背中をぺちんと叩いて気がついた。
『ちゃ、ちゃうちゃう! ちがうーっ!』
あの「モーテル」じゃないよ、お母ちゃん。モ・テ・ル。
モテルってのは、キッチン、シャワー、トイレはもちろん、テレビ、ソファー、ダイニングテーブルがリビングっぽく据え置かれてて、人数分のベッドが用意されてて、いわば車で横付けできる平屋のアパートに似たつくりのところでね。
ダブルを予約すると、夫婦用のダブルベッドの部屋と、シングルベッドがふたつ並ぶ子ども用寝室が別にあったりしてとっても便利。
そしてお値段は、一泊、一部屋90ドルから150ドルほど。
(注:人数ではなく部屋単位のお値段です)
キッチンには冷蔵庫、電子レンジ、鍋やポット、まな板洗剤、食器まで一通りの用具があるので、近所のスーパーマーケットで買い物をしてくれば、自分の家でのごとく夕食を作ることができる。
で、こたびの私たちの住みかとしてはどうかしら?
子連れで長期滞在となると何かと気苦労も多いこと必至。
大声で叱りとばしたいときもあろう。
一応、全財産を持ち歩いての旅&宿泊となるので、安全かつプライバシーを守る点でもやはりここはモテルが賢い選択といえましょう。
そうと決まれば。さっそく私たちは、過去2回の滞在時にお世話になった「アルバトロスモテル」をあたった。
季節は冬。シーズンオフのおかげか、幸い外には「VACANCY」の電光サインと
「ダブルで一泊55ドル」
の立て看板。
いいじゃないかー!相変わらド安いじゃないかー! 4年前と変わらぬお値段。感謝!
ニュージーランドのモテルは、旅人を温めてくれる……
モテルのゲートをくぐって駐車場に着いた時、前回、このモテルをチェックアウトした時のことを思い出した。
別れ際に、
「今度は家族で来ます!永住権を取って!必ずまた来ます!」
と宣言した自分を思いだす。
なんのあてもないのに、なぜか心に念じて決めていたあの頃。
保母の世界に英語なんて必要ないわ、と英語の勉強なんて高校時代以来見切っていた私が、「日常会話の基本フレーズ」なる本を買い集めるようになったのもあの頃からだ。
(本当に来ちゃった……)
カンタに続き、娘たちの手を引いてレセプションのドアをくぐる。
ドキドキ……だって、4年ぶりの再会だよ?
(同じオーナーかなぁ)
(わたしのこと、覚えてくれてるかなぁ……)
◇
「オー・マイ・ガー! ホントに来ちゃったのね~?」
私の姿を見るやいなや、オーナーのショーン&グェン夫妻は驚嘆の声で歓迎してくれた。
「エヘヘ」
涙が込み上げてきた。
4年前の自分ーー取材のため、ここをひとりで旅していた。
昨年の自分ーーアメリカで死にそうなダーリンと必死に生き、ニュージーランドに逃げよう!って決めた。
そして今ーーダーリンとここにいる。娘二人を連れて戻ってきた。
涙を拭きふき、私は、移住の実現話を端折って報告し、娘たちは、ショーンとグレンからハグとキスのシャワーを浴びた。
◇
「今回はね、5週間ほどのロングステイだから、おまけしてくださいね」
ゲンキンな私がいきなり値段交渉を始めたんで、律儀なカンタが補足説明に入る。
ー 名古屋港からコンテナで出した荷物が、9月6日にオークランド空港に届くこと。
ー だから、それまでに家を探して定住先を決めなくちゃいけないこと。
ー よって、それまでの仮住まいをさせて欲しいんです。
との旨を、超短くてシンプルな英語センテンスでもって、汗をかきかき説明する。
ショーンが、ニヤッと笑って右手の指を3本立てた。
「一週間で300ドルでどうだい? その代わり、シーツの洗濯は自分でするんだよ」
「Wow! 激安ッス! ザッツ・グレイト! ありがたい。サンキュー!」
私の英語力はともかく、言わんとしているこの感激は伝わったらしい。
私とショーンは、もう一度ガッシ!っとハグをした。
(第1楽章-2 につづく)