第1楽章-3★海外での医者探しは、弁護士探しの次に大事!のお話
(これまでのあらすじ)
モテルの暮らしにもすっかり慣れ、家探しに本腰入れようかと、オープンホームを訪ねるのが日課になりつつある2週間目突入の土曜日のこと。
「おはよう」
と髪の毛をボンバーにして起きてきた長女きなこを見て、ダーリンと私は、同時に
「どうしたの~!?」
と叫んだ。
本人は、きょとんとして目を見開いている。
「顔中真っ赤やで、どうしたん? 熱でもあるんか?」
ダーリンが、きなこの額に手を当てた。
熱はない。
きなこ、パジャマの襟元から自分の胸や腹をのぞき見る。
「きゃ~! 大変、体中ぶつぶつ~!」
顔がまん丸に見えるのは、異常なのか元々そういう顔だったか、母の私はやや動転して判断しかねて公言できず、娘の背中をチェックするために背後に回った。
「こりゃ、アトピーだな。環境がガラリと変わって慣れた頃だからね。
ちょうどそういう時期なんだ。
う~む。ニュージーランドのアレルゲンは、日本の薬でやっつけられるかしら?」
長女きなことアトピー性皮膚炎とのついあいはずいぶんと長い。
生後6ヵ月の頃からありとあらゆる民間療法に手を出したが、なかなか劇的な出会いには恵まれず、すでに本人の希望というか妥協で「共存」の道を選んで久しい。ステロイドのリバウンドに懲りてからというもの、漢方に凝る時期もあったが、即効薬でないぶん「効いてるのかしら」という疑問を抱きながらフェードアウトしてしまった。
これは、親の怠慢によるところが大きい。
小学一年生の時のアレルゲン検査で「敵はほこりと芝生」と発覚して以来、肘や膝、首あたりのかゆみは彼女の中では許容範囲と定められていて、両親はもとよりじじばばの「アトピーにいいんだってよ。使ってみて、やってみて」の数々の声にも「お気持ちだけでいただいときマス」のモードで聞こえないふりをしてきた。
がしかし、このたびのこの症状はこれまでにない衝撃的な事態。
「顔洗ってくる」と言って洗面所へ消えた後、再びきなこの
「きゃぁ~!」
やはり、あの顔は異常だったのね。母は、自分の視診が正しかったことに納得した。
さて、医者に行かねばならん。
医者はどこだ、どこに行けばいいんだ?
私たちは、またまた、レセプションのショーンのところへ駆けつけた。
「それならまず最初は、ザ・ドクターズに行くといい。
たしか朝の8時から夜の9時までオープンしてるはず。GP(ファミリードクター)を決めていない人たちや緊急の患者さんのための病院だからね。GPたちが持ち回りで当直してるからどのドクターにあたるかはわからんがな」
なるほど、日本で言う休日診療所みたいなものかな。
それにしても年中無休とはありがたい。GPは完全予約制。緊急事態の場合はそんな悠長なことしてられないもんね。
「ちなみに、さらにその時間外になると、すぐお向かいに救急病院があるからね。真夜中に何かあったらそっちに行くんだな」
はぃ、わかりました! ありがとう、と深々とお辞儀をし、ムーンフェイスのきなこを連れた一行は「ザ・ドクターズ」へ向かった。
◇
受付にて。
「あの~。日本から来たばかりで、住所も保険証もないんですけど……」
おそる受付で聞くも、受付嬢は「ザッツ・オーケ」と、にこにこ顔で問診票を差し出した。書くことができる欄は、名前と年齢、過去の病歴の記録のみ。
いいんですかね、これで……。
「ザッツ。オーケー」とその受付嬢は、ソファーを指さした。
(あ、そこに座って待ってろと……)
診察は、きわめて簡単。
「アレルギーですね。保湿クリームを出しましょう。風呂上がりにたっぷり塗ってください」
と、予想通りの展開、たったの2分で終了。
会計で払ったお金もたったの20ドル。(約1500円)
えっ、いいんですか、それだけで。
「ノープロブレム。ところで、あなた方は、GPを決めてますか?」
「いいえ、なんせまだこちらにきて二週間目ですから」
「じゃぁ、この中から、お好きなドクターを選んでください」
受付嬢は、30人ほどの顔写真がびっしりはまったB4サイズの用紙をカウンターに広げた。
「写真の下にそれぞれ、プロフィールと所在地が書いてありますから、よく読んでね。今日、あなた方が選んだドクターが、今後あなた方のGPになるの。お気に入りのドクターを決めたら教えてね。こちらから、そのドクターに今日のカルテを送りますから」
お気に入りのドクターを選べと言われてもなぁ……。
プロフィールはいいことしか書かれてないだろうし、場所だって近ければいいってモンじゃないし。
「医者も、やっぱ顔ですかね。私は、この人の笑顔が気に入ったな。いや、産婦人科系のことを考えると、女医さんの方がいいかな」
「女医さん? そ、それはちょっとなぁ……。アメリカで罹った前立腺炎が再発したら……#$%&’()%$#もぞもぞもぞ……」
(補注:彼は以前アメリカで前立腺炎を患い、きれいな女医さんにナニを公開している過去アリ)
(妻、スルー)
「あ、この人、漢方が専門だって!この人にしようか。きなこのアトビーに貢献してくれるかもしれないよ」
5分後、こうして私たちのGPが無事決まった。
3日後、カナのアトピー騒動は鎮静した。
薬が効いたというよりも、カラダが環境になじんだんだろうな、たぶん。
以来、3ヵ月、医者にかかるアクシデントはなく平和に過ごしていた。
が。
なんとそのドクターは、とってもとってもヤブで、おまけにゲイらしい、という情報があちこちから入手された。
「うっそ! ゲイはノープロブレムだけどヤブは困る!」
そしてさらにその3ヵ月後、とうとう身をもってヤブと認識する事件が起きた。
だって、肝炎の予防接種、間隔を置く日数を間違えて注射しようとしたんだよ!?
ヤブが針を刺す瞬間に、
「あ、ドクター、ちょっと待ってください!」
とストップをかけ、看護師さんがカルテを注視して気づいてくれて、ぎりぎりセーフ!
直ちに、友人が太鼓判を押すドクターに鞍替えをしたのはいうまでもない。
異国であろうとなかろうと、「自分の命は、自分で守る!」
これからも心して生きていこう!と誓った移民一家でありました。