リストラわいふ@ニュージーランド

恥をかきすて、見栄をすて、人生を楽しむことだけにフォーカスしている 【リストラwifeのリストラlife】をNew Zealandから熱くふんわりお届けします

★ 序曲-1★ ニュージーランド移民一家、オークランド空港の中心で叫ぶ

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<序曲-1>

(これまでのあらすじ

 

www.risutorawife-nz.com

 

夫の転職&アメリカ駐在を機に日本を離れ、1年半後の帰国命令に、

「え~っ? やだよそんなの~!」

と、計画的犯行に及んで晴れてニュージーランドへなだれ込みました夫カンタと私。

不安がまったくなかったといえばウソになる。

 周囲からさんざん浴びた「あとで後悔するぞぅ~」という脅し……時々頭ン中でこだまするけど『ひるむもんか!』……達成感に満たされていた私たちには、不安や困難という言葉すらキラキラ輝く希望に映っていた。

 

『私たちは、自分たちの力であの地獄から脱した……アメリカでの暗黒の日々、理不尽な日本社会と決別した!』

私たちは、あたらしい冒険の旅を選んだ。

人生再構築が今から始まるんだ。

これから先の人生、すべては自分たち次第。

『酸いも甘いも、どんとこい!』

緊張と期待で体の芯から火照ってくる。

 

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ニュージーランド到着!


ニュージーランドへ移住、第1日目

南半球の7月は冬。

北島、オークランド国際空港に降り立ち、一歩外に出たら さぶっ!。

 

「わぉ~っ、とうとう来ちゃったね、ダーリン!」
「おぅ!」

 

カートにはトランク4つと手荷物4つ。

背中には大きなバックパック、各の手には娘が1人ずつ。

 

どよーんと重たい雲が、手の届きそうなところまで垂れこみ、視界は全面グレーのキャンパスのように平たくて。ほほにあたる空気は刺すように冷たくて。おまけに雨がしとしと降ってきて。目の前の通りにはタクシー、シャトル、バスがびっしり連なって。しっぽから白い排気ガスを「ぶはっ!」と吐き出して流れていく。

 

「日本脱出を飾った第1日目がこんな天気かよ~」

「わたしたちのこれからを暗示しておるようじゃのぅ……」

  

しばし沈黙……。

 

夫カンタは食っていくことに、妻の私は娘たちを守ることに脳味噌の9割を使い、
残りの1割は、ひとりこっそり(ここまで踏ん張ってきた自分たちにご褒美をあげよ!)と、自分を甘やかすことに思いを馳せていた。

  

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国際線ターミナルと国内線ターミナルのフリーバスはこちら

と、その時。

 

「おかあさん! ここがニュージーランド? サンフランシスコと何が違うん?」
機内で爆睡中、変な時間に朝ごはんを食べさせられてご機嫌ナナメなのは、長女のあんこ、11才。

「マミィ、ヒツジはどこ? ウシとかヤギとか、ダチョウは?」

と詰め寄ってくるのは、次女のきなこ、9才。

 彼女たちはつい3ヵ月前、前駐在先のアメリカ・サンフランシスコにて地球儀を前に、

「今度はここへお引っ越しよ~」

と母親にだましだまし連れられてきたピュアな少女たちである。

ニュージーランドが世界地図上のどこに位置するのかもわからず、ヒツジに囲まれる暮らしだけを求めてやってきたシスターズ。気分はアルプスの少女ハイジ、干し草のベッドを夢見て11時間の飛行機にも耐えてきたんだもん、ホント、ここはニュージーランド? と詰め寄る気持ちはわからないでもない。

 

さまざまな肌の色、姿かたちの人間が目の前を通り過ぎ、声、言葉、機械音がごった返す様は、忙しく雑多でインターナショナルだ。

 

 

「ここは日本で言う東京やからな。とりあえず3日間ほどここらを周って、それから南へ下って行こう」

「そうだね。3日も必要かどうかわかんないけどね」

  一同、ゴロゴロとカートを引いて「Hertz」の黄色い窓口に向かった。

 

まずは今晩泊まるところを確保しなくちゃ

オークランド市街はやたらに一方通行が多く、おまけにシャトルバスやタクシーが追い抜け追い越せと、右横スレスレをびゅんびゅん突っ走っていく。

アメリカですっかり左運転になれてしまっている私は、助手席で「ひゃぁ~、きゃ~、信号赤やで、ホレ後ろ!」と夫の隣でうるさいうるさい。

 

「おねがいですから静かにしてくだされ……。運転に集中できへん」

と、地図を片手に、ここを右、それから左、とスイスイ目的地に近づいていく。

(注:まだナビも、グーグルマップもなかった時代ですんで……)

どうやら目指すモテルはもう決まっているらしい。

 

「なんだか忙しい街やねぇ。東京というより名古屋だな、こりゃ」

「いや、名古屋よりもひどいで。この地図見てみ。道路がまるでアリの巣」

夫の膝に置かれた地図をのぞき込んで……ゲゲッ。

ほんとだ。

 

私はこれまでに2回、このオークランドの地を踏んでいる。

1度めは家族旅行で。

2度めはその翌年、ひとりビデオを抱えて学校の取材旅行で通過した時。

通過したってのは、つまり、空港を降り立ち、ガイドブックに載っている観光スポットをチェックしながらとっとと南に下っていったというだけで、従って、住む街という視点でオークランドをながめたことは一度もないもんだから、う~む、なるほど。

道路が放射状になってたりするから、まっすぐ走ってるつもりでも太陽の位置が変わっていく。

そして……人が多い。

ニュージーランドの3分の1の人口がここにいるというのもうなずける。

ここは農業国の中での唯一の商いの街なのだなぁ。 

 

「オークランドでは住みません!却下」

もともと田舎志向の妻は、夫の横顔にむかってきっぱり言った。

 

「でも、オークランドやクライストチャーチ(南島で最大、オークランドに次いで2番目に大きい都市)、ウエリントン(首都)ぐらいの街でないと、仕事を探すのはキツイかもな。特に、IT系の仕事が田舎の地域で見つかるとはとても思えん……とにかく明日、職安に行こう」

 

「げっ、もう仕事探しするの?」

「……? ほな、何すんねん?」

 (そ、そんな、漫才のツッコミのような言い方しなくても……)

 

カンタ、38才(当時)

父親の仕事の都合で幼少時期から引っ越しを重ねながらもそのほとんどを関西で過ごした彼は、尾張弁の私と結婚し、なおかつその後9年間を三河弁域で暮らしたにもかかわらず、いまだに関西弁のアクセントが抜けない。

 

「にゅ、ニュ、ニュージーランド中、旅して回ろうよ……」

 

(カンタ、思いっきり溜めてため息をつくの図)

 

「お、おくさま……。われらは今、ノーインカムの身ですよ? 無収入の立場で旅行とは……ちーと冒険が過ぎるのではありませんか?」

「で、でも……あの、だんな様……。私たち、日本でもアメリカでも身を粉にして働いてきたではありませぬか? 一旦ここで息抜きしたってバチはあたりますまい……」

 

「バチはあたらずとも、そりゃぁ、あなた、無謀や、危険すぎる」

ハンドルを握り、目線をまっすぐに伸ばしながら、カンタ、譲らぬ姿勢。

「だって、せっかく、あのどろどろに忙しかった暮らしをチャラにしてゼロ地点に戻ったんだよ? 今、羽伸ばさないでいつ伸ばすのん? ここいらで深呼吸してさ、無の世界に浸るのも悪くないと思うよ。もしすぐに仕事見つかっちゃったらさ、カンタのことや、またまた、ガシガシ、ガムシャラに働くに決まってんじゃん」

 

「……不安やないんか?」

「なんの不安?」

 

「無職の身である不安」

「ぜ~んぜん!」

 

「信じられへん……」

「だって、カンタも私も手に職があるもの。いざとなったら自分たちの手で何かビッグでもスモールでもいいからビジネス立ち上げればいいじゃん。

そんなに急いで労働者にならなくても、急がば回れで、まずはニュージーランドの全容を知るほうが大事だよ」

 

「でも、現実には、毎日カスミを食ってるわけにはいかんのやぞ。確実に手持ちのお金は減っていく。そういうの、やばいやろ~?」

「そんなことないよ。今、私たちの軍資金は20万ドル。日本円でざっと約1400万。
(注:2019年現在ではとてもこの金額では家、買えません。1.5倍は軽く物価が上がっています)

ちっちゃな家買って手元に400~500万ぐらい残しておけば、1、2年ぐらいは暮らせるんじゃね?(またまた注:今ではそれは難しいと思われます。1年ですっからかんになると思われます) だいじょうぶぅー。その間にきっと何かいいアイデアが浮かぶさ!」

 

「あなたのそのアバウトな読みにはいつも感心するわ。それで何とかここまで来ちゃってるからなぁ。アメリカからここへのトンズラ企画も、あなたの発案でみごと実現しちゃったわけやし……で、でもなぁ。今度ばかりはオレも折れんぞ。

とりあえずは職安には行ってみる。行きたいんや。いや行くべきや!

行って、今の移民の就職状況を知る、これ、必須と違うか?」

 

おっ。これは、いままでにないカンタの押しではある。

これまでの人生行路は、大概にして「妻の発案&立志×夫のアレンジ&尻拭い」という絶妙のコンビネーションでもってクリアされてきた。

ここに来て、夫が先に立志をたてるとは、まっこと画期的なコト。 

 

う~む。

ここはひとつ、男のプライド(彼にあるとするならだけど)を尊重して一歩譲るとするか。

 

「ん~。……そやね! それはそれで必要やね。

職に就く就かんは別としてオークランドの情報が今後の基準になるからね。

よっし! 行きましょ、行きましょ。とりあえず行きまっしょ!」

 

たぶん、世の中そんなに甘くはないと、思うけど……。

 

(序曲-2 につづく)